【再録】扇子工房に行ってきました

京都の『京都 扇子司 伊藤常』さんを訪問したときの記事を再録いたします。
今年のオーダーメイドフェアも『京都 扇子司 伊藤常』さんにて一品一品、手仕事にてお作り頂きます。
読み応えたっぷりの訪問記です。

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この度、初夏の京都に扇子の作り方を教わりに行ってまいりました。
まず、訪れたのはBOX & NEEDLEのオリジナル扇子を制作していただいている
『京都 扇子司 伊藤常』さんです。
五条大橋の近くの奥通りに静かに佇む、京都らしい長屋作りのとても素敵なお店。
創業100年にもなる老舗扇子店『伊藤常』さんでは日本舞踊に用いられる華麗な舞扇から
現代風のモダンなデザインまで様々な扇子を扱っていらっしゃいます。
扇子は平安時代初期、日本で生まれたと言われています。
最初の扇子は文字などを書くための木簡(木の短冊)の端に穴をあけて紐で束ねたことが
始まりなのだとか。
その後、和紙を貼るなどのデザインを変えながら現在みられる扇子の原型が完成します
コンパクトに折り畳める利点もあり扇子は、中国大陸に渡りヨーロッパ中へと広まりました。
貴族のご夫人が絹やレースの貼られた優美かつ豪華な扇子を手にしている肖像画を目にしたことがある
ような気がいたします。
17世紀のパリには扇子を扱うお店が150軒もあったほど上流階級の女性たちのあいだで流行しました。
世界中で様々な形に変化し扇子は楽しまれてきた事が分かります。時には羽がついてふっわふわに
なる事も。
日本ではというと、扇ぎ涼をとる役割の他に、贈答やコミュニケーションの道具として平安時代の
暮らしの中にとけ込んでいきました。
扇子に花を載せて贈ったり、扇面に和歌を綴って贈り合ったり。まさに「雅び」な情景で
日本人らしいの贈ることそのものを楽しむ姿が想像できます。
次は扇子作りの様子を見学させていただく為、伊藤常さんにご案内いただき工房にお邪魔しました。
京扇子が仕上がるまでには、細かく分類すると80をも超える行程があり、そのどれもが伝統的な道具と
熟練の職人による高い技術が必要な為、各工程ごとの専門の職人さんが分業で1つの扇子を
仕上げていきます。
本日、見学させていただいたのは扇型の紙を蛇腹状に折りその紙を扇骨と呼ばれる竹でできた
扇子の骨に通していく行程です。
今回、拝見できなかったこの工程の前段階である、扇骨をつくる行程も扇子骨職人さんにより
手作業で行われています。
竹を割り、アクを取る為に大釜で煮て、何度も削って、磨いて、削って、塗って...大変。
扇子を形作る基礎となる部分のための、その行程も高い技術が必要不可欠です。
ちなみに扇骨を根元でまとめて固定するビス状の金具を『要(かなめ)』といいます。
現在は真鍮や樹脂製の要が主流ですが、昔はクジラのひげで作られていました。
要がないと扇子としての用をなさなくなるため、最も重要な部分という意味で
『肝心要(かんじんかなめ)』という言葉が生まれたそう。へー。
ではまず、折り加工から。
扇型に切られた紙(地紙)を扇骨の本数に合わせて蛇腹に折り畳んでいきます。
美濃紙という丈夫な和紙に柿渋を塗り重ねてできた『折り型』と呼ばれる折り目のついた
厚い型紙2枚を使います。
湿らせて柔らかくなった地紙をその型紙に挟んで、すばやく折りたたんでいきます。
扇子のサイズは扇骨の要までの長さ(寸)と骨の数『間数(けんすう)』で表されます。
この紙は『6寸5分 35間』の扇子用の型紙で折られています。
サイズそれぞれに専用の折り型があり職人さんから職人さんへと大切に受け継がれていました。
35という数字が少し見えますね。
澱みなく流れるように折って見せて下さるのですが、相当な時間を重ねなければここまで綺麗に
折ることはできません。
余っている端を裁断し、折った状態で側面から拍子木で叩き、しっかりと折り目を付けてならします。その後干して乾燥。
『折り』の行程の次は、『中指し』です。乾かした地紙に骨を通すための道を作ります。
細い竹さしを使って紙を裂くように刺していきます。
地紙は3枚の紙を重ね合わせて1枚になっていて、この中指しでは真ん中の極めて薄い芯紙と
言われる紙を裂きながら道をつけていきます。
最後に万切り包丁で折り畳んだ地紙の天地を切り揃え、折り加工が終了。
次は『附け』という作業に移ります。
まずは『地吹き』という行程。中指しで作ったすき間に骨を通し易くするために、息を吹き込んで
穴を広げていきます。
見事!きれいに道が開いています。ここに糊を塗った骨を差し込んで行くというわけです。
これも1枚ずつ吹いていくのですから体力がいります。お腹がすいていたらできません。
酸欠でぜーぜーしてしまいます。
糊は澱粉糊を水で調節したものを使い、油があり糊の付き難い竹素材の骨にしっかりと
塗り付けます。
ここは箱作りと少し似ています。薄く均一にむらなく塗ります。
骨は先端に行くにつれ紙のように薄く削られていて柔らかく、それを一穴ずつ通して行くため
大変な集中力が必要です。
糊を付けない状態とはいえ、この行程をずうずうしく私も体験させていただいたのですが、
想像以上に難儀。。こんなんでは最後の一本を入れるまでに糊が乾くわ、という位
時間がかかってしまいました。
根元までしっかり骨を差し込みます。
しかし各骨が折り目ごとの中心に固定されていなければ扇子は歪んできれいに折り畳まれません。
全ての骨を入れ終えたらば、『決めつけ』という骨の位置の調節を行います。
これはほぼ、職人さんの勘が頼りです。
糊によって膨らんだ地紙を拍子木で叩いて締めるという『こなし』という作業を行います。
次は『矯めいれ(ためいれ)』という行程です。
両脇の親骨と呼ばれる太い骨に熱を加えて先端がすぼまるように内側に湾曲させます。
この行程を知るまで閉じた扇子はまっすぐなものと思い込んでいましたが、出来上がったものをよくよく見てみると
どれも()かっこ型のカーブを描いています。
糊付けの代の横に焼き網の乗った火鉢が置かれているのは、気になっていました。
お餅用ではなく、これが親骨を温めるためのものでした。
適度な温度まで温め、全てに均一な矯めをいれていきます。
そして矯めをいれた親骨と地紙を接着して、先端の親骨を地紙の断面に揃えて切り落とします。
くし型の道具に挟んで乾燥させ最後、『セメ』という銀色の紙帯をはめて固定し完成!!!
長い。
しかしこれでもかなりの行程を省いてしまっている可能性があり、職人さんには申し訳ないくらいです。
今回これらの卓越した技術と集中力と根気を必要とする数々の行程を経て、扇子が作られている事を
教わり、驚きの連続でした。
私自身、日本人でありながら表面的にしか知る事のなかった扇子という伝統文化を少しでも
たくさんの方に再認識していただければ、今回このようなレポートを書かせていただいた事の
意味があるのではと感じます。
伊藤常さんのホームページには「伝える」と「創りだす」ことへの率直な思いが記されています。
満足の行く素材、目を見張る技、息を呑む出来具合。そういったものの維持、継続に悩む日々です。
過去の佳きものに負けないもの、出来ればそれ以上のものを目指し、そして次世代に伝えて
ゆきたく思います。」
職人さんは年々減り続け、伝える事もそれを維持する事もとても簡単な事ではないと
伺いました。
この美しく高度な伝統工芸が長く長く続いてくれるための一歩はその伝統を知る事から
始まると思います。
今年も扇子の季節です。
BOX & NEEDLE が選んだ世界各国の紙を使用した京扇子。
今年度の扇子は中指しという紙に扇骨を通す作り方ではなく、扇骨の片面に布や紙を貼って仕上げる
『絹扇子仕立て』という方法で作っていただきました。
伊藤常さんは絹扇子の折職人であった祖父の伊藤常吉氏が創業した扇子店のため、その技術は確かなもの。
国内産の絹扇子仕立ての扇子がどんどん減少している現在において、その技術を長く残していくためにも
この製法でお作りいただいています。

まもなく父の日。お父さんへのプレゼントに。【4930yenリネンケース・ボックス付き】
末広がりの形状から扇子はお祝いのご贈答にも最適です。
リネンケースとともにオリジナルデザインの京都友禅和紙でお作りしたボックスに収めて
贈られてみてはいかがでしょうか。
この扇子が職人の手によって数々の行程を経た末に完成したことも、お伝えていただければ
これ以上に嬉しい事はありません!
ぜひ、ご覧下さいませ。
長くなりました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そして伊藤常のみなさん。この度の手厚いご対応に深く感謝致します。

 

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